金継ぎを始めたいけれど、金粉の種類が多すぎてどれを買えばいいかわからない。真鍮粉でもそれっぽく見えるなら、わざわざ高い金粉を買う必要ってあるの?そんな迷いを抱えている人は多いはずです。
金継ぎに使う金属粉は、純金の粉(消粉・丸粉・平極粉)、銀粉・プラチナ粉、真鍮粉などの“代用金粉”など、種類が多く、しかも純金粉は1gあたり数万円〜という高価な材料です。名前やイメージだけで選んでしまうと、思っていたより暗く沈んだ色になった、日常使いですぐ擦り減ってしまった、食器に使ったら変色・金属臭が出てきた、といった高い勉強代になりかねません。
この記事では、以下をわかりやすく整理します。
- 消粉・丸粉・平極粉の具体的な違いと選び方
- 真鍮粉と純金粉の違い、金継ぎにおける安全性の考え方
- 銀粉・プラチナ粉といった金以外の選択肢
「蒔絵粉」という言葉の注意点
多くの人が最初に戸惑うのが、「蒔絵粉(まきえふん)」という言葉です。
「蒔絵粉」は“総称”としての名前
「蒔絵粉」とは蒔絵や金継ぎで使われる金属粉の総称です。中身は用途や表現によってさまざまに分かれています。たとえば、消粉(けしふん)、丸粉(まるふん)、平極粉(ひらごくふん)、平目粉(ひらめふん)・梨地粉(なしじふん)など、形状・粒度の違う粉の「集合」を、ひとまとめに「蒔絵粉」と呼んでいます。
商品名に「蒔絵粉」とあるときの落とし穴
実際の通販や店舗では、「純金蒔絵粉 1g」、「蒔絵用金粉」、のように、商品名としてざっくり「蒔絵粉」と書かれていることも少なくありません。ところが、商品名だけでは中身の“粉の種類”がわからない場合があります。
- 初心者向けの金消粉なのか
- 磨き前提の丸粉なのか
- 消粉と丸粉、あるいは金と銀などのブレンド粉なのか
で、仕上がりも難易度もかなり変わります。
失敗しないポイント
商品名に「蒔絵粉」と書かれていても、購入前に必ず、商品説明やラベルで「消粉/丸粉/平極粉」などの種類・号数・合金の有無を確認しましょう。
名前ではなく、中身の「形」と「粒の細かさ」で選ぶのがコツです。
【比較表】消粉・丸粉・平極粉の違いと選び方
まずは、金継ぎでよく使われる金消粉・丸粉・平極粉のざっくりした違いを整理しておきます。
| 種類 | 粒子の特徴 | 輝き方 | 難易度 | 注意したいポイント | 向いている人・用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| 金消粉 | 最も細かい粉状 | マットで柔らかい | 低 | 蒔きっぱなしだと摩耗しやすい | 初心者/キット派/土もの・落ち着いた器 |
| 丸粉 | 球状の粒 | 非常に強い光沢 | 高 | 漆のタイミングと磨きが難しく、剥げやすいことも | 本格派/磨き仕上げを楽しみたい人 |
| 平極粉 | 薄い板状の微粉 | 消粉と丸粉の中間的な光沢 | 中 | 線がやや太くなりやすく、好みが分かれる | 中級者/広い面・日常使いの器 |
初めての金継ぎで失敗したくないなら、金消粉を少量で
扱いやすく、広い面もムラなく仕上がる金消粉(きんけしふん)は、金箔をさらに細かく砕いて、綿のようなふわふわした粉状にしたものです。
- 粒子が非常に細かい
- 漆の上に“雪のように”ふわっと乗る
- 広い面も比較的ムラなく埋められる
といった理由から、初めて金継ぎをする人に勧められることが多い金粉です。本漆と純金粉を使う本格派の金継ぎキットでも、「標準の金粉」として金消粉がセットに含まれていることがよくあります。
もし粉選びだけでなく、最初から金継ぎを自分でやってみたい場合は、道具・工程・キットの選び方を詳しくまとめています。
金消粉が入った初心者向けキットの比較はこちら
蒔きっぱなしでもきれいだが、耐久性は意識したい
金消粉は、蒔いた直後からマットでやわらかな金色が出るため、蒔いて、余分な粉を払って、そのまま仕上げという「蒔きっぱなし仕上げ」でも、それなりにきれいに見えます。
ただし、粒子が薄く繊細なぶん、たとえば箸やカトラリーが当たりやすい部分、食器洗いでスポンジが頻繁にこすれる部分では、年月とともに少しずつ薄くなったり、部分的に剥がれたりしやすいという弱点もあります。
日常使いの器で耐久性を上げたい場合は、上からごく薄く透明な漆をかける「粉固め」や、口が当たる場所を避けて意匠を配置するといった工夫も検討してみてください。
消粉は摩擦で薄くなりやすいですが、それを劣化と捉えるか、使い込んだことで少しずつ表情が変わっていく味わい(経年変化)として楽しむか、です。もしあまり変化させたくない場合は、上から薄く漆を塗って保護(粉固め)することもできます。
本格的な輝きと磨きに挑戦したいならプロの輝き「丸粉」
光沢が出る丸粉
丸粉(まるふん)は、地金をヤスリで削り、球状に整えた金粉です。金消粉に比べて粒がしっかりしており、磨き込むことで非常に強い光沢が出ます。丸粉には粒の大きさごとに「1号、2号、3号…」と番号がついていますが、金継ぎでよく使われるのは、1号・2号・3号あたりの細かめのサイズです。
ざっくりしたイメージは以下です。
- 1号・2号
- 粒が細かく、繊細な線を描きやすい
- 消粉からのステップアップにちょうど良いサイズ
- 3号
- 1・2号より少し粒が大きく、磨いたときの「キラッ」とした存在感が増す
- “はっきりした金の線”が好きな人にとっては定番サイズ
- 4号以上
- 粒の大きさが目で見てわかるレベルになり、ザラつき・厚みも出る
- 強いインパクトを出したいときの上級者向けの遊び領域
号数が大きくなるほど、線が太くなりやすい、繊細な金継ぎ線には載せにくい、という傾向があるので、はじめは1〜3号の範囲で選ぶのが安全です。
磨き仕上げや丸粉の扱いを本格的に身につけたい場合は、本漆を扱う東京の金継ぎ教室一覧を参考にしてください。
1g数万円の世界。初心者は「小分けパック」を狙う
丸粉や金消粉などの純金粉(本金粉)は、金の地金価格に加えて精製・粒度調整の手間がかかるため、現在は1gあたり数万円〜が相場です。「とりあえず1g買ってみるか」と気軽に買える価格ではありません。
そのため、金継ぎ用としては、0.1g、0.2g、0.3gなどの「少量パック」を選ぶのがおすすめです。小さな割れや欠けなら、0.1gでも何回か修理できる。「自分にとって丸粉の輝きが本当に好きか?」を、少ない投資で試せる。という意味でも、最初は少量からが現実的です。
中間的なバランス「平極粉」という選択肢
金消粉と丸粉の中間的な存在として、「平極粉(ひらごくふん)」があります。
平極粉の特徴
- 形は薄い板状の微粉
- 輝きは金消粉と丸粉の中間くらい(消粉ほどマットではなく、丸粉ほどギラギラもしない)
- 比較的、定着性と耐久性のバランスが良い
そのため、「金消粉より少しだけ金属感がほしい」、「でも丸粉ほどギラギラさせたくはない」というときにちょうど良い選択肢になります。
平極粉が向いているケース
- 日常使いの器で、ほどよい輝きと耐久性がほしいとき
- 掌サイズ以上の、やや広い面に金を引きたいとき
- 土ものでも磁器でも、バランスよく馴染ませたいとき
丸粉に比べると線がやや太く、少し「金属板」のようなニュアンスが出やすいので、そこが好きかどうかは好みが分かれます。一度、少量を試して「自分の器や好みと合うか?」を見てみる価値は大きい粉です。
器との相性で考える:素材別・雰囲気別の選び方
どの粉が「正解」という絶対ルールはありませんが、器の素材や雰囲気との相性で考えると、だいぶ選びやすくなります。
土もの・マットな陶器には「落ち着いた金」
- 粗めの土肌
- マット釉や、少しざらっとした表面
などの“土もの”には、金消粉や細かめの平極粉のような落ち着いた金が馴染みやすい傾向があります。
- マットな金は、器の景色の中に自然に溶け込みやすい
- ギラギラしすぎないので、全体の雰囲気を壊しにくい
「金継ぎしてます」という主張より、ひっそりとした上品さを出したい場合には、消粉系が向きやすいです。
ツヤの強い白磁・磁器には「はっきりした金」
白磁のカチッとしたツヤや絵付けのある磁器のお皿のようなツヤの強い器には、器そのものの光沢に負けない、ある程度存在感のある金の方がバランスを取りやすいことが多いです。
丸粉(1〜3号)や平極粉など、磨き仕上げや中間的な光沢が出る粉を選ぶと、金継ぎした部分だけが「汚れ」っぽく見えてしまう、線が弱すぎて、かえって違和感が出る、といった失敗を避けやすくなります。
黒系・モダンな器には「銀・プラチナ」も候補に
黒やチャコールグレー、モダンなマットブラックの器には、金だと一気にゴージャス方向へ寄り、銀粉やプラチナ粉だとクールでスタイリッシュ な印象になる、という違いが出やすいです。
黒に金ももちろん美しいのですが、「和モダンで渋くまとめたい」「シャープで静かな雰囲気にしたい」という場合には、銀色系(銀消粉・プラチナ粉)を選ぶとバランスが取りやすくなります。
「食器以外」、「練習だけ」なら真鍮粉
次は、多くの人が気にしている「真鍮粉(しんちゅうふん)」についてです。真鍮粉は、見た目が金色で、価格が純金粉の数分の一〜数十分の一という理由で、「代用金粉」として広く使われています。
口をつける部分の食器には、真鍮粉は避けるのが無難
日常的に口をつける食器の内側や縁の部分には、真鍮粉の使用は避けるのが無難です。理由は大きく3つあります。
- 真鍮は銅+亜鉛の合金であり、酸や塩分の多い料理と長時間接触すると、表面が変色したり、成分が溶け出す可能性があります
- その際、料理に独特の金属臭(いわゆる「金気(かなけ)」)が移るリスクがあります
- 金属アレルギーを持つ人への配慮が必要
中には、食品衛生法に適合したコーティングや特殊な塗料と組み合わせることで、真鍮でも安全性を確保している例もあります。ただ、粉そのものの安全性が一律に保証されているわけではないため、個人での家庭用金継ぎでは、慎重なスタンスを取る人が多いです。
真鍮粉は、簡易金継ぎキットに使われることも多いため、目的に合っているかどうかチェックしましょう。
食器に使える素材の基準や、2025年法改正のポイントはこちらに詳しくまとめています。
練習用やオブジェには、コスパ最強
とはいえ、真鍮粉には大きなメリットもあります。
- 価格が純金粉に比べて圧倒的に安い
- 色が金色に近く、練習していてテンションが上がる
- 割れた陶片やオブジェの修復には十分きれいに見える
「割れた器のカケラで練習したい」「飾るだけの花器・オブジェを直したい」といった用途では、コストパフォーマンス最強の練習用粉です。
使い分けの目安
- 口をつける食器・日常的に使うマグカップ → 本金粉(消粉・丸粉・平極粉)や銀・プラチナ粉
- 練習用の陶片・飾るだけの器 → 真鍮粉も選択肢に入る
「金粉と真鍮粉の違い」は、色味だけでなく、安全性と経年変化まで含めて考えるのがポイントです。
金色だけじゃなく、銀粉・プラチナ粉という選択肢も
金だけが金継ぎの主役ではありません。銀色系の粉も、器との相性次第で非常に美しい仕上がりになります。
銀粉・銀消粉:経年変化を楽しむ「いぶし銀」
銀粉は、その名の通り銀色の金属粉です。金と違い、時間とともに硫化して黒っぽく変色していく性質があります。金消粉に相当する銀消粉もあり、こちらもマットで柔らかい光り方をします。
- 使い込むほどに、いぶし銀のような落ち着いた色合いに変化する
- 白磁や青磁、グレー系の器と組み合わせると、非常に渋い印象になる
- 一方で、「黒くなる=汚れ」と感じる人には向きません
こんな人に向いている
- 経年変化や「侘び寂び」を楽しみたい
- モノトーン寄りのコーディネートが好き
- 黒〜グレー〜白の器が多い
銀継ぎが気になる方は、銀継ぎの特徴やキットをご覧ください。
プラチナ粉は、変色しにくいクールな銀色
「銀色が好きだけど、黒ずみはちょっと…」という人には、プラチナ粉が向いています。
- 見た目は銀粉に似たクールな銀白色
- 金と同じく非常に安定していて、変色しにくい
- 白磁・ガラス・北欧系のモダンな器との相性が良い
価格は銀粉より高めですが、
- 「白い器の雰囲気を壊さずに、さりげなく継ぎ目を見せたい」
- 「変色を気にせず、いつも同じ色で楽しみたい」
という場合には、選ぶ価値のある粉です。
よくある失敗Q&A:「思っていたのと違う」を防ごう
Q1. 仕上がりが暗くてくすんだ感じになってしまった
考えられる原因
- 金消粉のマットな特性と、下地の漆の色(弁柄や黒)が強く出ている
- 器のツヤが強すぎて、消粉の控えめな光が負けている
対策
- ツヤの強い白磁などには、丸粉や平極粉も検討する
- 金消粉を使う場合は、蒔く量を少し多めにしてしっかり覆う
- 下地の漆の色を見直す(真っ黒より、少し赤みのある弁柄系など)
Q2. 金粉がうまく定着せず、触ると剥がれてしまう
考えられる原因
- 漆を蒔くタイミング
- まだ乾ききっていない(ベタつきすぎ)
- 逆に乾きすぎていて「指触乾燥」のベストタイミングを逃している
- 漆の層が薄すぎる or 厚すぎる
対策
- 漆は「指で触ると少し跡がつくが、指にほとんど付かない」くらいの指触乾燥のタイミングで金粉を蒔く
- 丸粉の場合は特に、漆の層とタイミングがシビアなので、試し板で一度テストしてから本番に行く
- 消粉でも、日常使いの器は粉固めなどで保護するかどうかを検討する
Q3. ギラギラしすぎて安っぽく見えてしまう
考えられる原因
- 粒の粗い丸粉や真鍮粉を広い面に厚く蒔きすぎている
- 器本体がマットなのに、金だけが強烈にツヤツヤしている
対策
- 号数の小さい丸粉(1〜2号)や金消粉・平極粉に切り替えてみる
- 広い面を一色でベタ塗りするのではなく、線や点でリズムをつける
- マットな器には、マットな金(消粉系)で合わせる、という発想に切り替える
迷ったときの「3ステップ」:今のあなたにはどれ?
最後に、ここまでの内容を踏まえて、タイプ別のおすすめルートをまとめます。
① これから初めて金継ぎをする人
- 本漆を使った金継ぎに挑戦したい
- とりあえず1つ2つ、割れた器を直してみたい
→ おすすめ:金消粉(0.1〜0.3g程度)
- 扱いやすく、工程も比較的シンプル
- 土もの・磁器どちらにも合わせやすい
- 「金継ぎらしい」見た目をまずは体験できる
② 磨き仕上げの輝きを楽しみたい人
- 消粉での金継ぎは経験済み
- もっと「ジュエリーのような金の線」に憧れる
→ おすすめ:丸粉1〜3号を少量、試してみる
- はじめは1〜2号で繊細な表現に挑戦
- 慣れてきたら3号で少し存在感のある金に
- 漆のタイミングと磨きの工程を、試し板でしっかり練習する
③ とにかくまずは工程に慣れたい人
- 高い金粉を使う前に、練習で手を動かしたい
- 割れた器のカケラや、飾り用のオブジェをたくさん直してみたい
→ おすすめ:真鍮粉+練習用の器
- ただし、口をつける食器の本番修理には純金粉や銀・プラチナ粉を使う
- 「練習用」と「本番用」で粉を使い分ける意識が大事
まとめ:名前ではなく「用途と安全性」で選ぶ
金継ぎの金粉選びは、一見すると専門用語だらけで少し難しく感じます。しかし、この記事で見てきたように、
- 自分のレベル(初心者〜本格派)
- 器の素材・雰囲気(陶器・磁器・黒系など)
- 使い方(毎日使う食器か、飾り用か)
の3つを整理すれば、「今の自分にはどれを選べばいいか」がかなりはっきりしてきます。
- 最初の一歩は、扱いやすい金消粉を少量から
- 磨きと輝きに惚れ込んだら、丸粉1〜3号の世界へ
- 工程の練習やオブジェには、真鍮粉を“練習用”として上手に使い分ける
自分と器に合った粉を選んで、「失敗したらどうしよう」という不安よりも、「どんな景色になるかな」というワクワクを感じながら金継ぎを楽しんでみてください。
もし『自分でやるよりプロに頼みたい』という方は、
こちらで東京の修理対応工房の比較をまとめています。

コメント
コメント一覧 (2件)
[…] あわせて、セットに入っている金粉の種類(消粉・丸粉・真鍮粉など)も確認しましょう。接着剤同様に、真鍮粉は食器にはおすすめできません。初めての方や日常使いの食器には、本漆+純金粉(金消粉など)や銀粉のセットが安心です。詳しくは → 金継ぎの金粉選び記事をご参照ください。 […]
[…] 同じ“金色”でも、本金継ぎでは消粉・丸粉・平極粉といった純金粉を使い、簡易金継ぎでは真鍮粉などの代用金粉が使われることが一般的です。粉の形状や素材によって、見た目の質感や食器への適性も変わるため、詳しくは『金継ぎの金粉選び』の記事も参考にしてください。 […]