割れたり欠けてしまった大切な器を金継ぎで直そうと思ったときに迷うのが、 本漆を使った金継ぎ(本漆金継ぎ)か、エポキシなどを使用する簡易金継ぎで十分か、という点ではないでしょうか。本記事では、使う素材、修理に必要な期間、仕上がり、そして食器としての安全性について整理しています。
本漆金継ぎと簡易金継ぎの比較
| 項目 | 本漆金継ぎ(本漆) | 簡易金継ぎ(新うるし・合成樹脂系) |
|---|---|---|
| 向いている人 | 長く大切に使いたい人伝統技術をしっかり学びたい人 | まず試したい人手軽に体験したい人 |
| 向いている器 | 食器などの口をつける器 | 花瓶など口が触れない器 |
| 耐久性・安全性 | ◎ 食器として使用可 | △ 食器は注意が必要 |
| 使う素材 | 漆、砥粉、金粉など | エポキシ接着剤、真鍮粉など |
| 乾燥時間 | 数週間〜数ヶ月 | 数時間〜1日 |
| 仕上がりの質感 | 立体感・光沢に深み | フラットで均一な仕上がり |
| 難易度 | 初心者〜上級者 | 初心者 |
| 費用の目安 | 修理:5,000円〜 キット:9,000円~ | キット:5,000円前後〜 |
本漆金継ぎと簡易金継ぎとは?
本漆での金継ぎは、天然の本漆を使う伝統技法
本漆金継ぎは室町時代から続く日本の伝統技法です。漆を使って割れや欠けをつなぎ、金粉で仕上げます。最大の魅力は、割れや欠けを隠すのではなく、傷そのものを美しさ(景色)として生かす美意識にあります。漆が重なり、光沢と深みが現れる仕上がりは、本漆金継ぎならではの味わいです。
『金継ぎの金粉選び』の記事も参考にしてください。
簡易金継ぎは、新漆・エポキシパテなどの合成樹脂を使う現代的技法
簡易金継ぎは、漆の代わりにエポキシ接着剤や新漆を使い、真鍮粉などを使って修復する方法です。漆と違って、かぶれにくい、乾燥が早い、材料費が安い、といった手軽さが人気です。ただし、後述するように、食器として使えるかどうかは注意が必要です。
手軽なことから、一日体験ワークショップの多くが、簡易金継ぎを使用しています。
参考記事:金継ぎを習うなら、教室?それとも1日体験?
工程と難易度
本漆金継ぎの工程と時間
「塗る → 乾かす → 研ぐ」を繰り返すため、細かい工程になります。漆は湿度と温度に反応してゆっくり硬化するため、1回の塗りで数日の乾燥が必要です。全工程では、1〜2ヶ月程度はかかります。本漆での金継ぎは「待つ時間」も含めて楽しめるかどうかです。
- 洗浄・油分除去
- 麦漆での接着
- 乾燥(数日〜1週間)
- 欠けの充填(錆漆など)
- 研ぎ
- 中塗り・上塗り
- 金粉・銀粉を蒔く
- 最終硬化(漆風呂で乾燥)
簡易金継ぎの工程
必要最小限の工程で、初心者でも扱いやすいのが特徴です。接着剤や合成樹脂は数時間〜1日で硬化するため、本漆金継ぎと比較すると、簡易金継ぎは短時間で完成します。ワークショップでは、その日に持ち帰ることも可能です。
- 接着
- パテで欠けを埋める
- 成形・研磨
- 新うるし等で着色 → 真鍮粉で仕上げ
見た目
本漆金継ぎの美しさ=「景色」
本漆金継ぎでは、漆、金線などが重なり、唯一無二の「景色」が生まれます。年月とともに漆の色が透けていく、経年の変化まで楽しめるのが本漆金継ぎの魅力です。
簡易金継ぎの見た目
見た目は金継ぎらしく仕上がりますが、均一でフラットで光沢の奥行きは出にくいといった傾向があり、本漆金継ぎのような深みは出にくいことが多いです。
耐久性と食器としての安全性
本漆の金継ぎは、食器として使用可能
天然漆は完全に硬化すると強い被膜になり、熱や水分、アルコールや弱い酸には耐えられるようになります。漆器が食卓で使われてきた歴史が示す通り、口をつけても問題なく、日常の食器として使い続けられます。ただし、電子レンジなどはNGです。
簡易金継ぎは、食器利用に注意
簡易金継ぎで使う「合成樹脂」や「新うるし」は、2025年6月1日施行の食品衛生法(ポジティブリスト制度) により、食器の「食品に触れる部分」への使用は原則不可になりました。安全が確認された素材のみ食器使用できるのですが、新うるし・合成樹脂などはリスト外の成分も多いため、材料が食品衛生法に対応しているかは、チェックが必要です。また、真鍮紛は、錆びて変色するため、注意が必要です。
また、簡易金継ぎで仕上げに使う真鍮粉は、酸などで変色・金属臭が出やすい特性があります。簡易金継ぎで直した器は“インテリアとしての利用”が基本で、もし食器に利用する場合は、上記のポイントに注意が必要です。
費用
プロに修理依頼する場合
修理の費用は、割れ方や素材によって大きく変動します。一般的には、本漆金継ぎのほうが簡易金継ぎよりも高い費用になります。また、簡易金継ぎに対応する金継ぎ工房は少なめです。
修理を依頼したい方はこちらの東京で金継ぎ修理ができる工房まとめを参考にしてください。
教室に通って自分で金継ぎする場合
自分で本漆金継ぎを行う場合、乾燥工程に時間を要するため、金継ぎ教室に通うことが現実的です。費用の目安としては、1回の通学につき、6,000円以上の教室が多く、最低でも6回程度は通う必要があります。よって、36,000円以上となりますので、自分でなおしたいという意向が無い場合には、プロに修理をお願いしたほうが安くなります。
簡易金継ぎの場合は、器の持ち込み可能の1日体験があり、ひびや割れがひどくなければ、5,000〜8,000円程度で直せることもあります。
金継ぎ教室を探したい方はこちらの東京の金継ぎ教室・体験おすすめ20選を参考にしてください。
金継ぎキットを使って、自分で直す
家庭で金継ぎが出来る金継ぎキットが発売されています。こちらは教室のように丁寧な指導はありませんが、マニュアルや動画がついていることが多く、費用も教室ほど高価ではありません。費用の目安としては、本漆金継ぎで1万円前後〜、簡易金継ぎで5,000円前後〜でキットを購入できます。
自分で直してみたい方は、こちらの初心者におすすめの金継ぎキットを参考にしてください。
どの器に、どちらの金継ぎが向いている?
本漆金継ぎが向いているケース
- 食器として使いたい器(マグカップ・湯のみ・お皿)
- 作家もの・アンティークなど価値が高い器
- 家族の思い出の器、贈り物など
- 伝統技術を学びたい、長く使いたい
簡易金継ぎが向いているケース
- 花瓶・一輪挿し・オブジェ
- 口が触れない部分だけ装飾したい
- 体験だけしたい
- 短期間で完成させたい
よくある質問(Q&A)
Q1. 簡易金継ぎでも食器に使う人がいますが?
2025年6月以降、食品に触れる器具や食器に使う合成樹脂は、厚生労働省の「ポジティブリスト」に掲載された原材料だけに限られました。そのため、多くのホビー用の新うるしや接着剤は、口に触れる部分には使用できません。一部には「食品衛生法・ポジティブリスト適合」「食器 OK」と明記された材料もありますので、もし簡易金継ぎで食器に利用したい場合はパッケージ表記を確認してください。口に触れる食器は本漆による本漆金継ぎがおすすめです。
Q2. 本漆金継ぎは初心者でも習えますか?
定期教室であれば初心者でも習えます。東京の金継ぎ教室を参考にしてみてください。
Q3. 本漆金継ぎの場合、かぶれが心配です
ゴム手袋と長袖の着用は必須です。心配な方は、自分でやらずに修理に出すか、簡易金継ぎを選択することも選択肢です。
Q4. 簡易金継ぎで直した器を、後から本漆金継ぎできますか?
可能ですが、簡易金継ぎの素材を一度すべて除去する必要があります。
この場合、ご自身で作業することは難易度が高いため、金継ぎ工房に相談するのがおすすめです。
どう使いたいかを基準に、金継ぎを選ぼう
食器として安心して使いたい場合や真鍮紛による将来的な錆びを懸念する場合は、本漆金継ぎがおすすめです。体験としてや、ちょっとしたインテリアとして楽しみたいといった方は、簡易金継ぎも選択肢です。
