割れたり欠けてしまった大切な器を金継ぎで直そうと思ったとき、迷うのが 「本金継ぎ(ほんきんつぎ)で直すべきか」「簡易金継ぎ(かんいきんつぎ)で十分か」 という点ではないでしょうか。
どちらも「壊れた器を再び使えるようにする」技法ですが、
使う素材、かかる時間、仕上がり、そして“食器として安全に使えるかどうか” が大きく異なります。
この記事では、次の3つを軸に整理します。
- 本金継ぎと簡易金継ぎの決定的な違い
- あなたの器にはどちらが向いているか
- 2025年6月の食品衛生法改正で、簡易金継ぎの扱いがどう変わったのか
「使い方」と「器の大切さ」で選ぶ
本金継ぎと簡易金継ぎの比較表
| 項目 | 本金継ぎ(本漆) | 簡易金継ぎ(新うるし・合成樹脂系) |
|---|---|---|
| 向いている人 | 長く大切に使いたい人伝統技術をしっかり学びたい人 | まず試したい人手軽に体験したい人 |
| 向いている器 | 高級食器、思い出の品マグ・お椀(口をつける器) | 花瓶、置物、オブジェ口が触れない部分の修復 |
| 耐久性・安全性 | ◎ 食器として使用可(漆が完全硬化すると強固) | △ 食器利用は原則NG(2025年以降規制対象) |
| 使う素材 | 天然漆、麦漆、小麦粉、金粉・銀粉 | エポキシ接着剤、パテ、合成塗料(新うるし) |
| 乾燥時間 | 数週間〜数ヶ月(工程ごとに乾燥) | 数時間〜1日(当日持ち帰りOK) |
| 仕上がりの質感 | 立体感・光沢に深みがあり「景色」が生まれる | フラットで均一な仕上がり |
| 難易度 | 中〜上級者向け | 初心者向け |
| 費用の目安 | 修理:5,000円〜数万円教室:月1〜2万円台 | 体験:5,000〜8,000円台キット:5,000円前後〜 |
「本金継ぎ」と「簡易金継ぎ」とは?
本金継ぎ(天然の本漆を使う伝統技法)
本金継ぎは室町時代から続く日本の伝統技法で、
天然の漆を使って割れや欠けをつなぎ、金・銀などの金属粉で仕上げます。
最大の魅力は、割れや欠けを隠すのではなく、
“傷そのものを美しさ(景色)として生かす” 美意識にあります。
漆が重なり、光沢と深みが現れる仕上がりは、簡易金継ぎには出せない味わいです。
簡易金継ぎ(新うるし・合成樹脂を使う現代的技法)
対して簡易金継ぎは、漆の代わりに
- エポキシ樹脂系接着剤
- エポキシパテ
- 新うるし・工芸うるし(合成樹脂塗料)
- 真鍮粉や代用金粉
といった 化学素材 を使って修復する方法です。近年はワークショップで一般的となり、
- かぶれにくい
- 乾燥が早い
- 当日仕上がる
- 材料費が安い
といった手軽さが人気です。ただし、後述するように、食器として使えるかどうか の観点では注意が必要です。
違い① 使う素材の違い
本金継ぎで使う素材
伝統的な「天然素材」を中心に組み合わせます。
- 漆(生漆・黒呂色・色漆)
- 麦漆(むぎうるし):小麦粉+水+漆で作る天然の接着剤
- 粉体(砥粉・地の粉など)
- 本金粉・銀粉・白金粉
ここで使う小麦粉は、料理用と同じ原料ですが、あくまで「接着剤(麦漆)をつくるための素材」です。
簡易金継ぎで使う素材
扱いやすい化学素材が中心です。
- エポキシ接着剤(2液混合タイプが多い)
- エポキシパテ
- 新うるし・工芸うるし(合成樹脂塗料)
- 真鍮粉・メタリック粉
ホームセンターでも揃えられる気軽さが魅力です。
違い② 工程と難易度
本金継ぎの工程(約7〜10ステップ)
「塗る → 乾かす → 研ぐ」を繰り返すため、細かい工程になります。
- 洗浄・油分除去
- 麦漆での接着
- 乾燥(数日〜1週間)
- 欠けの充填(錆漆など)
- 研ぎ
- 中塗り・上塗り
- 金粉・銀粉を蒔く
- 最終硬化(漆風呂で乾燥)
根気と技術が必要ですが、その分だけ仕上がりの奥行きが格段に違います。
簡易金継ぎの工程(約3〜4ステップ)
必要最小限の工程で、初心者でも扱いやすいのが特徴です。
- 接着
- パテで欠けを埋める
- 成形・研磨
- 新うるし等で着色 → 真鍮粉で仕上げ
ほとんどの1日体験ワークショップはこの方式です。
違い③ 完成までのスピード
本金継ぎは「待つ時間」も含めて楽しむ
漆は湿度と温度に反応してゆっくり硬化するため、
- 1回の塗りで数日
- 全工程で1〜3ヶ月以上
かかることもあります。仕上がるほどに光沢が深まり、経年変化で徐々に透明感が増すといった特徴もあります。
簡易金継ぎは短時間で完成
接着剤や合成樹脂は数時間〜1日で硬化します。塗料もすぐ乾くため、その日に持ち帰ることも可能です。
違い④ 見た目と「景色」
本金継ぎの美しさ=「景色」
- 漆の層の立体感
- 金線の厚み
- 光の反射の柔らかさ
これらが重なり、唯一無二の「景色」が生まれます。年月とともに漆の色が透けていく、経年の変化まで楽しめるのが本金継ぎの魅力です。
簡易金継ぎの見た目
見た目は金継ぎらしく仕上がりますが、
- 均一でフラット
- 光沢の奥行きは出にくい
といった傾向があり、本金継ぎのような“深み”までは出にくいことが多いです。
違い⑤ 【重要】耐久性と「食器としての安全性」
本金継ぎは、食器として使用可能
天然漆は完全に硬化すると強い被膜になり、
- 熱
- 水分
- アルコール
- 弱い酸
に耐えられるようになります。
漆器が食卓で使われてきた歴史が示す通り、口をつけても問題なく、日常の食器として使い続けられます。
簡易金継ぎは、2025年6月以降「食器利用は原則NG」
簡易金継ぎで使う「合成樹脂」や「新うるし」は、2025年6月1日施行の食品衛生法(ポジティブリスト制度) により、食器の「食品に触れる部分」への使用は原則不可になりました。
- 安全が確認された物質だけが使用できる
- 多くの新うるし・合成樹脂はリスト外
- メーカーも「口に触れない部分限定」と明記
したがって、簡易金継ぎで直した器は“インテリアとしての利用”が基本です。
違い⑥ 費用感|修理・教室・DIYで変わる
読者が最も気になる「費用」を、目的別に整理します。
1. プロに修理依頼する場合
- 本金継ぎ:5,000円〜数万円/1点
→ 割れ方・器の格・素材で大きく変動 - 簡易金継ぎ:対応工房は少なめ(花瓶などが中心)
修理を依頼したい方はこちら:
[東京で金継ぎ修理ができる工房まとめ]
2. 教室に通う場合
- 本金継ぎ(定期教室): 月1〜2万円台
- 簡易金継ぎ(1日体験): 5,000〜8,000円台
教室を探したい方はこちらから
東京の金継ぎ教室・体験おすすめ20選
3. 金継ぎキットを使って、自分で直す(DIY)
- 本金継ぎ: 1万円前後〜(道具を揃えれば長く使える)
- 簡易金継ぎ: キット5,000円前後〜で始められる
自分で直してみたい方はこちら:
初心者におすすめの金継ぎキット
どの器に、どちらの金継ぎが向いている?
本金継ぎが向いているケース
- 食器として使いたい器(マグカップ・湯のみ・お皿)
- 作家もの・アンティークなど価値が高い器
- 家族の思い出の器、贈り物など
- 伝統技術を学びたい、長く使いたい
簡易金継ぎが向いているケース
- 花瓶・一輪挿し・オブジェ
- 口が触れない部分だけ装飾したい
- とりあえず1回体験したい
- 1日で完成させたい
よくある質問(Q&A)
Q1. 簡易金継ぎでも「自己責任」で食器に使う人がいますが…?
法的にも安全面でも推奨されません。
口に触れる部分に合成樹脂を使うことが禁止されているため、2025年6月以降は特に避けるべきです。
Q2. 本金継ぎは初心者でも習えますか?
定期教室であれば初心者でも習えます。
→ 東京の金継ぎ教室
Q3. 漆かぶれが心配です。
事前にパッチテストを行う教室や、ゴム手袋で作業できる教室も多いです。
心配な方は簡易金継ぎ体験から入るのも一つの方法です。
Q4. 簡易金継ぎで直した器を「後から本金継ぎ」にできますか?
可能ですが、簡易金継ぎの素材を一度すべて除去する必要があるため、
工房に相談するのがおすすめです。
まとめ|“どう使いたいか”を基準にすれば迷わない
- 食器として安心して使いたい → 本金継ぎ
- インテリアとして楽しみたい → 簡易金継ぎ
あなたの器が、これからどんな場面で活躍してほしいか。
そのイメージに合わせて技法を選べば、きっと満足のいく仕上がりになります。

コメント
コメント一覧 (2件)
[…] ここでは、実際に依頼する前に必ず知っておきたい「金継ぎ修理の料金と時間」をまとめます。以前の記事(本金継ぎと簡易金継ぎの違い)で解説した通り、「食器として使うかどうか」も確認しましょう。 […]
[…] ※本漆と簡易金継ぎの違いをもう少し詳しく知りたい方はこちら→ 本金継… […]